日本における同一賃金同一労働の私的まとめ

正社員と非正規社員との賃金格差、同一賃金同一労働について考えをまとめたいと思いこの記事を書いていきます。

少なくとも日本においては「不合理な格差は認められない」という点がポイントになってきます。「仕事が同じ→給与も同じ」と考えている方は、その点に注意して同一賃金同一労働に関する事象を見ていって欲しいと思います。

なお、この記事を書いている人間は人を動かす立場にいるものの、末端の見習いみたいなものですので専門家とは呼べません。間違いや他に考慮した方がいいことがあればやさしく指摘していただけると嬉しいです。

同一賃金同一労働とは

同一賃金同一労働は「同じ仕事をしているのなら同じ賃金を払う」という考え方です。

当たり前ではないかと思われるかもしれませんが、実際には様々な面で問題となり、法整備が進んできています。具体的には人種や性別による差別、正社員と非正規社員(派遣社員・アルバイト・パート)の待遇格差が問題になっています。

ここでは後者(正社員と非正規社員の格差)について書いていきます。

同一賃金同一労働に関して、均等待遇と均衡待遇という2つの単語がキーワードになります。

均等待遇(きんとうたいぐう)

「同じ仕事をしているのなら同じ賃金を払う」という原則通りの考え方です。

例えば、倉庫作業を行うフルタイム(8時間×5日=40時間)の正社員(一般職)とパートさんがいるとします。どちらもまったく同じ現場で、同じ作業、残業対応の義務等も同じです。

その場合は、時間当たりに換算した給与や、通勤手当や給食手当、ボーナス等の支給に差を付けるのは同一賃金同一労働の原則に反するという事になります。

条件によりますが、正社員の手当を時間換算してパートさんに支給するのは問題ありません。

均衡待遇(きんこうたいぐう)

こちらは均等待遇に対して、条件が違う場合に、その差と待遇の均衡(バランス)が取れていないとダメですよという考え方です。

均等待遇の例ですと、正社員は作業のうち1~2割フォークリフト作業もするということにします。この場合も、「仕事内容に差があるから正社員は時給1,600円相当、パートさんは800円相当で問題ないよね」という事にはなりません。

一部作業が違うだけですから、せいぜい1~2割の割り増しか、フォークリフト手当が付く程度でないと均衡が取れているとは言えません。

他にも、社員の場合は全体の調整や中長期的な事を考えながら作業に入っている場合が多いかと思います。

日本の法律における同一賃金同一労働

「労働基準法 第20条」が短時間労働者の待遇差別を禁じている

正規社員と非正規社員との待遇差別を禁じているのは労働基準法の第20条です。

有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。

労働基準法 第20条

要約すると、「雇用形態の差によって不合理な格差を付けてはならない」という事です。ここに書いてある「不合理と認められるものであってはならない」というのは、先に書いた均衡待遇の事です。

「今やっている仕事が同じ」→「待遇が同じ」とは限らない

「仕事内容が同じであれば同じ賃金を支払う」のが原則ですが、”今”やっている仕事が同じでも待遇に差を付けることが認められる場合があります。たとえば「将来、会社の中核を担う人材になっていってもらうため教育に関する手当を厚くする」、「転勤の可能性があるため住宅手当を支給する」といった場合です。

先の条文の中の次の部分が根拠になります。

当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。

  • トラブルや最終的な損益等に対する責任
  • 将来のキャリアパス
  • 転勤・職種転換の有無

極端な話、総合職の方が現場を知るためにパートさんと同じ仕事をしたからといって、パートさん並みに給与を下げるというのはあり得ません。逆に総合職側が訴えたら勝ってしまいます。

ただし、この差については会社側が「なぜ差があるのか」説明する義務があります。これについて説明できない、あるいは差の付け方が不合理だと判断されれば、裁判で負けることになります。

派遣における同一賃金同一労働

パート・アルバイトの場合は正社員と同一の会社に所属しますが、派遣社員の場合は派遣元に所属する点が違ってきます。

この項目は2020年4月の法改正を含んだ内容になります。

派遣先に合わせるのが原則(派遣先均等・均衡方式)

派遣先の同一の労働をしている人に待遇を合わせるのが原則です。これはあくまで労働者に支払われる給与の話ですので、会社の支払いは派遣会社のマージンが必要になるので3割増し程度になります。

すべての待遇について均衡を取ることが必要

基本給や職能給だけでなく、通勤手当などのすべての手当やボーナス、退職金等について、不合理な差は認められないとされています。賃金以外でも、希に聞く「派遣社員は食堂を使えない」という様な待遇差は認められません。

基本給、賞与、手当、福利厚生、教育訓練、安全管理等、全ての待遇のそれぞれについて、派遣先の通常の労働者との
間に「不合理な待遇差」がないように待遇を決定することが求められます。
不合理な待遇差解消のための点検・検討マニュアル ~改正労働者派遣法への対応~

同一の仕事をしている人がいない場合は「他の社員と均衡を取る」「新規募集したとしたらいくらになるか想定して給与を決める」という事になります。

後の項目でも出てきますが、「不合理な待遇差」が認められないのであって、均等待遇は求められていません。

教育訓練を例にします。今の業務に直接必要な教育や安全訓練については同じ様に扱わないといけないでしょう。しかし、中長期的な教育については、長期雇用を前提としない派遣社員に対する待遇から除外しても不合理とは言えないでしょう。そうした待遇については派遣元の責任になってきます。

時給換算して給与に反映させることも可能

「退職金」や「ボーナス」という形で支給しなくても、時給換算して時給に含めることも可能です。その方が運用が簡単なため、この方法をとる派遣会社が多くなるでしょう。

退職金の場合は他に、外部の制度を利用する方法が示されています。いずれにしても支払いの手段が異なるだけで、事業者が負担する必要があることには変わりません。

  • 退職金制度に基づいて退職金を支給する
  • 退職金の費用を毎月の賃金等で前払いする
  • 中小企業退職金共済制度や確定拠出年金等に加入する

不合理な待遇差解消のための点検・検討マニュアル

派遣元で基準金額を作る(労使協定方式)

派遣先均等・均衡方式の場合、派遣先内での均衡は保たれます。しかし、まったく同じ仕事をしているのにも関わらずA社2,000円/時からB社1,200円/時に下がった(または上がった)という事が起こります。

そこで、労使協定方式という方式も認められています。派遣元で基準金額を作り、その基準について労使で合意する事で一定の時給を受け取ることができる方法です。

法的な解釈としては派遣先均等・均衡方式が原則ですが、実体としては労使協定方式が主流になると思われます。

なお、労使で合意していれば時給を自由に決められるわけではありません。国が設定基準(職種・地域など)を示していますから、それ以上の時給を設定する必要があります。

労働基準法 第20条に関する判例

労働基準法 第20条に関しては、次の2つの最高裁判決が同日に出ています。

どちらも運送会社のドライバーで、訴訟当時は正社員と同じ仕事をしている状態でした。単純に待遇差があるから違法、仕事に差があるから合法というものではなく、個別の手当について有効か無効かを判断しています。

2つの事件については、下記リンクから弁護士による解説を見ることができます。他にも検索すれば多数の解説が出ていますので、興味のある方は調べてみてください。

ハマキョウレックス事件

労働基準法第20条に対して、正社員と契約社員の待遇格差を争った裁判です。ハマキョウレックスは3PL(物流関連業務の提案・計画・遂行を行う企業)企業で、原告はドライバーとして働いていました。

前提として、正社員と契約社員の間には次の様な差があります。

  • 正社員と契約社員で業務内容に差はない
  • 正社員は出向や職場転換の可能性がある
  • 正社員は将来的に会社の中核となる人材として登用される可能性がありその教育を受ける立場にある

結果として「労働基準法第20条に違反している」の5項目について支払いが命じられています。

  • 労働基準法第20条に違反している
    • 無事故手当
    • 作業手当
    • 給食手当
    • 通勤手当
    • 皆勤手当
  • 労働基準法第20条に違反していない
    • 住宅手当
  • 判断しない
    • 家族手当
    • 定期昇給
    • 賞与
    • 退職金

日々の業務に直結する手当の不支給は違法

無事故手当や作業手当などの「労働基準法第20条に違反している」項目は、日々の業務に対する手当だと考えられます。将来の転勤やキャリアアップとは無関係であるため、待遇差は認められていません。

住宅手当については転勤に対する補償として認められています。「判断しない」となっている項目は、今回争われた労働基準法第20条に違反したとしていても支払いが認められるものではないとして判断自体していません。

長澤運輸事件

定年退職後、嘱託社員として再雇用され、業務内容が同じにも関わらず給与が2割程度下げられたとして訴えを起こしています。

正社員と嘱託社員で給与の計算方法が違ってきますが、長くなるので省略させてもらいます。

  • 違反する
    • 精勤手当
    • 超勤手当
  • 違反しない
    • 能率給(嘱託社員の場合は歩合給が支給される)
    • 職務給
    • 住宅手当
    • 家族手当
    • 賞与

業務内容が同一にも関わらずそれなりの給与差が認められた形になりますが、労働者側に一方的に不利な判決とも言えません。この件の場合は、歩合給の形で業務量が給与に反映される様になっている事、老齢年金の支給まで2万円の調整給を支給する事で収入低下に配慮されているとなど、労働者側にも配慮した給与体系になっています。

定年後の再雇用である点が事情として考慮された

まず、「精勤手当」と「超勤手当」は業務に直結する手当です。ハマキョウレックス事件と同様に不合理な格差だと判断されています。

その他の手当については次の様な理由で違反しないと判断されています。

  • 業務に直結する手当ではない(住宅手当/家族手当)
  • 老齢年金の支給が予定されている
  • 老齢年金の支給まで調整給が支給される
  • 既に退職金の支給を受けている

能率給や職務給は業務に直結する手当でもありますが、歩合給や老齢年金の支給まで調整金2万円が支給される事などから、不合理ではないと判断されています。

住宅手当と家族手当に関しては業務に直結する手当ではなく、福利厚生・生活保障に関わる手当であると判断されます。そのため、家庭の事情など業務以外の事情が考慮されます。老齢年金や調整金の支給がある事から、不合理な差ではないと判断されています。

賞与に関しても、既に退職金を受け取っていること、老齢年金の支給がある事から、不支給でも問題ないとしています。

参考

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