先に書こうと思った記事が予想外に重くなってしまったので、先に軽め(?)の記事を書いてみようかと思います。
トランスジェンダー(性別違和・性同一性障害など)の性自認に沿ったトイレ利用を認めないのは違法という判決(一般的なものではなくケースバイケース)が出たりしていますが、社会の理解がなかなか追いついていない部分もあります。このあたりの問題を、一度整理してみようと思います。ここでは問題になりやすいトランスジェンダー女性(MtF)の問題を中心に話します。
よく言われる問題点の整理
トランスジェンダー側
性自認の否定・アウティングにつながる
トイレは当然ながら、毎日使わなければいけないものです。異なる性別のトイレを利用するというのは、ざっくり言うと「私は[性自認の性別]ではない」と毎日確認されるようなものです。性自認に対する違和感は人それぞれですが、そこが気になる人にとっては毎日が苦痛になります。また、定期的に身体的性別を「再確認」させられることで、他の部分の違和感も増幅されてしまいます。
関係のない方からすると「そんなことで・・・」と思われるかもしれませんが、性自認に直結する重要な問題です。
そういった理由で、トイレ利用を避けることにより、身体的な健康上の問題が発生する可能性もあります。
「(人によって)男性にも女性にも見える」「女性にしか見えない」人が男性用トイレに入れば混乱を招きますし、周囲からの嫌がらせや暴行などの原因にもなります。単純に非常に目立つため、本人の心理的負荷も上がってしまいます。
完全に戸籍変更した後・長期間女性として生活した後しか女性用トイレが使えない
現状の裁判の基準やお堅いところの許可を取る基準は、基本的にパスしている(見た目が女性に見える)ことを前提に、「戸籍変更したらいいですよ」「何年も女性として生活して周りも慣れてるからいいですよ」ということになります。
はて?それまではどうしたらいいんでしょうか?答えは「決まっていない」です。
もう少し詳しく話しますと、社会的(見た目的)な性別移行というのは、ホルモン治療をしたから、手術をしたからできるものではありません。戸籍の問題を除けば、女性に見えるかどうかとあまり関係ありません。ホルモン治療で多少脂肪の付き方が変わったとしても、骨格や声は男性ですから、お化粧や服装でカバーする必要があります。生物学的女性より難しいことをいきなりやるわけですから、うまくいくまでに時間がかかります。
また、トランスジェンダーの方も、戸籍変更までする方は一部です。ホルモン治療や性別適合手術は明らかに身体的な健康面でデメリットがあります。一度してしまうとその負荷が死ぬまで続くため、「そこまではしたくない・必要ない」「(もともとの疾患など)健康面でできない」「費用が高額で金銭的にできない」という方も多いです。また、性自認自体が中立寄りで、そもそも女性化を望んでいない場合もあります。
いろいろな問題はありつつも「このハードルを越えられないなら使う資格はない」と切ってしまうのは、多数派の理屈で暴論です。今までの様々な権利獲得の経緯が踏まえられていないと思います。
女性側
「女性専用スペースの安心感」・プライバシーが損なわれるのではないか
個室が隣り合っている状態で男性がいることに対する抵抗感や、化粧直しにも使う手洗い場で男性が隣に来ることに対する抵抗感があります。
性被害の懸念
生物学的な異性(トランスジェンダー女性)が女性用の空間に入ってくることで、性的暴行、痴漢、盗撮が増えるのではないかという懸念があります。
更衣室や温泉などに拡大されるのではないかという懸念
トイレの利用が認められてしまうと同じように男女が分けられている、更衣室や温泉にも生物学的な異性(トランスジェンダー女性)が入ってくるのではないかという懸念があります。
多目的トイレが使われるが完全な解決になっていない
解決策の一つとして、男女共用になっている多目的トイレが推奨されていますが問題点もあります。
どこにでもあるわけではない
比較的大きい施設や、公共性の高い施設にしかないです。また、大きい施設の場合でも、人通りの少ないところには設置されていないことも多いです。
他の用途と被ってほとんどの場合1つしかないから足りない
車いすユーザー、身体障がい者、介助が必要な人など、多目的トイレを必要とする人は他にもいます。しかし、ほとんどの場合、多目的トイレは1つしかありませんから、混雑する場面では順番待ちになってしまいます。
スペース効率が悪すぎるから増やせない
車いすの乗り入れや介助者の手助けに対応できる広さがいるため、普通のトイレと比べてかなり広く作られています。下手をすると、多目的トイレ1つで小規模なトイレ(片方の性別分)と同じくらい面積を取ります。
車いすユーザーなどにとってももう少し数はいると思いますが、施設管理者からするとなかなか増やせないのではないでしょうか。
問題点を中立に
先に書いた問題点はよく聞くものであるものの、偏見や誤解も含んでいます。これが正しいという事ではなく、視点を広げて欲しいという意味で書いていきます。
「女性として生活したい」人は基本的に問題を起こしたくない
一般化するのは少し危ない気はしますが・・・ただでさえ偏見の目で見られがちなトランスジェンダー女性ですから、センシティブな場でわざわざ問題を起こそうという人は少数派です。
参考:自民党・細野豪志氏「女装をした男が女風呂に入るのは心も体も男性の変態野郎」も「当事者は家族風呂を選ぶ。トランス女性を犯罪者と関連付けることは当事者を苦しめる」
違和感については個人差が大きく、議員が当事者から聞いた話を一般化するのもどうなんだろうと思うところはあるのですが、ご参考に。
防犯的設計は別で必要
盗撮や性犯罪は、男女別だろうが一緒だろうが起きます。女性主体の盗撮や、男性が女性に依頼しての盗撮も以前からあります。
犯罪者が嫌うのは人の目があることで、最近の家庭の庭でもオープンにした方が防犯性が高いと言われます。たとえば、屋外トイレだと目隠しや敷地に生垣を作ってしまうと逆効果で、開けた状態にして、出入りを監視カメラで記録するだけで全然違います。
トイレの盗撮であれば、清掃時に巡回して余計なものを置かせないというのが重要です。
選択肢は女性用施設をそのまま使うかどうかだけではない
男性用トイレじゃなければいいという人は多い
当事者の方は、男性用トイレを使うのが嫌なのであって、「何が何でも女性だから女性用トイレを使わせてほしい」というわけではないケースが多いです。ただ、現状では男女別トイレか多目的トイレしかなく、多目的トイレが使えない状況だとどうしようという状況になってしまいます。
ジェンダーレストイレ
「トイレは男女別でないといけない」というのは思い込みであったり文化的な刷り込みが大きくて、海外ではジェンダーレストイレ(男女共用トイレ)が広がってきています。
後の章でまた取り上げます。
「トイレ」問題と「更衣室」「温泉」問題は一緒にしない
裸になってお互いに見えてしまう温泉と、お互いプライバシーが守られているトイレの問題を一緒にするのはやめましょう。
更衣室に関してはその中間で、着替えが完全個室なら直接裸が見えることはないんですよね。とはいえ、スペースを取りますから、はじめからそのように設計していないと難しい問題ではあります。
何よりも女性の権利が守られるべき?
これに関して、私は明確に「NO」と回答します。歴史的に見ると女性は「権利を侵害される側」であることが多く、日本では解消されていない面が多いのですが、このケースでは「女性」が多数派です。
「先行している海外との比較(どんな問題が起きて何が問題でなかったか)」「過去の人権獲得の流れを見て今回はどう考えていくべきか」というのを、今の価値観から離れて客観視する必要があります。
「女性の権利が守られるべき」「怖いから一切入って来て欲しくない」という感情だけが先行すると、話が進んでいきません。
余談ですが、アメリカや韓国で起きているバックラッシュ、あれは指標になる分野の女性の割合が4〜5割に到達したから起きています。まだ全く足りていない日本であれに同調するのはバカじゃないの?と思ってしまいます。
ジェンダーレストイレの導入について
日本でも少数ながら導入されていますが、男女共用のジェンダーレストイレというものがあります。
私も「来年から全部男女共用ね!」なんていうのはムリだと思いますし、する必要もないと思います。ただ、「トイレは男女別でないといけない」というのは文化や制度的な刷り込みの影響が大きく、慣れや世代交代が解決する部分が大きいと思います。
実際のトイレはいろいろなパターンがありますので、ヨーロッパの事例のリンクを貼っておきます。最初の記事の方が詳しい画像が載っています。
ジェンダーフリー・バリアフリー先進国の北欧3か国(フィンランド・デンマーク・スウェーデン)で、性差別を改善するユニセックス・トイレを現地で実体験してみた
YouTubeでスウェーデンのトイレ事情に関するトークもあったので、こちらもあわせてご覧ください。
スウェーデンで男女共用トイレが普及している本当の理由 | 歌舞伎町タワーのジェンダーレストイレに思うこと | 現地在住日本人のホンネトーク
防音やプライバシーの観点から完全個室化は必要
日本のトイレはお金がかからないからなのか、換気や清掃の面なのか、上側や下側は仕切られていないことが多いです。プライバシーを守る観点から、上下ぴったりとくっつけた、完全個室にする必要はあると思います。
すべてを男女共用にする必要はない
法律的な制約を詳しく調べていないのですが(労働安全衛生法に記載があるのは確認)、導入の方法としては複数のパターンが考えられます。
- 建物内をすべてジェンダーレストイレ化
- 一部のトイレ(フロア単位や各階の半分など)をジェンダーレストイレ化
- 男性トイレ側をジェンダーレストイレ化
トランスジェンダー以外のメリット
混雑対策になる
連休中の高速道路など、男性用トイレは空いているのに女性用だけ混んでたりしますよね。また、イベント会場では内容によって男女比が偏ってしまう場合があります。性別を限定しないトイレを作ることで、トイレの総数が同じでも遊んでしまう個室が減ることになります。
介助者や子供連れ
介助が必要な方や、微妙な年齢の子供がいる場合に、付き添う方と対象者の性別が違うとトイレで困ります。多目的トイレの様な広さが必要ない場合であれば、ジェンダーレストイレは解決策になります。
まとめ
設備の更新、費用的な問題はありますが、認識の問題が大きいと思います。
まずは学校や公共施設で広がってもらって、あるのが当たり前の状態になるといいなと私は思います。
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